Contents
  1. 「ウィキペディア(1)」
    1. 但し書き
      1. 文中の[[]]について
      2. 文章の信頼性について
    2. すべてフリーです
    3. ウィキペディアの基本的方針
    4. 名前空間
    5. カテゴリ機能
    6. 私のお仕事
    7. 削除依頼とsysop
    8. 次回予告
    9. 今回ご紹介したウィキペディアの項目…
  2. 2月号分「ウィキペディア(2)」
    1. 但し書き
      1. 文中の[[]]について
      2. 文章の信頼性について
    2. 知れば知るほど難しいGFDL
    3. 履歴を守るために
    4. 編集合戦
    5. テンプレート
    6. マルチメディア化するウィキペディア
    7. あとがきにかえて
    8. 今回ご紹介したウィキペディアの項目…

Wikipedia 原稿パイロット版

改稿しました(2005/9/28 Gleam)

「ウィキペディア(1)」

著者: Gleam(http://ja.wikipedia.org/wiki/User:Gleam

はじめまして,Gleamです.ウィキペディア日本語版(http://ja.wikipedia.org/)のsysop(シスオペ)をやっています.ウィキペディアはアメリカのウィキメディア財団が運営しているいくつかのプロジェクトの中核となる「フリー百科事典」で,200以上の言語でのべ180万項目以上が執筆され続けています(注1).日本語版はそのうち4番目の規模(約13万項目)で,検索エンジンの上位にもよく出るので一度はご覧になったことがあると思います.

【画像1:ウィキペディア日本語版トップ画像 http://ja.wikipedia.org/

残念なことに日本にはまだウィキメディア財団の支部がなく(注2),私たちsysopがインターネット上で日々の管理作業のお手伝いと広報対応を個人的に行っています.なかなかウィキペディアについて詳しく知る機会がないというお叱りを受けているのですが,今回幸いにも2回に渡って連載の機会を頂きました.今月はウィキペディアの使い方と記事の投稿の仕方,ウィキペディアを動かすWiki「MediaWiki」の機能について,来月号ではウィキペディアの運用上の課題点などについてちょっとだけお話できればと思っています.ウィキペディアに興味のある人だけでなく,世界最大のWikiであるウィキペディアを題材に,Wikiが急成長したときに起こるトラブルについて皆さんに興味を持っていただける内容になれば幸いです.

  • 注1)すべての言語版のうち30ヶ国語版が1万項目以上を有しています.やや古いですが,統計資料がhttp://en.wikipedia.org/wikistats/JA/Sitemap.htmにあります.
  • 注2)財団には現在アメリカ本部,ドイツ支部,フランス支部があり,イギリスとイタリアで支部の設置を準備しています.詳細はhttp://wikimediafoundation.org/をご覧下さい.

但し書き

文中の[[]]について

文中,[[]]で囲ってある文字列はウィキペディアの記事を参照してください.ウィキペディアの「検索」窓にその文章を打ち込むと該当する記事を読むことができます.

文章の信頼性について

この記事はウィキペディアの利用者である執筆者の個人的な見解に基づいており,ウィキメディア財団の公式な見解を示すものではありません.

すべてフリーです

ウィキペディアのコンテンツは全てGNU Free Documentation License (GFDL)というコピーレフトのライセンスで提供されています(注3).GNUと同様にGFDLも「自由」を謳うライセンスで,履歴情報やライセンス情報を添付し,同一条件下で二次利用物をライセンスすれば自由に再利用が可能です(注4).ウィキペディアは財団の方針で広告を入れずに運営されていますが,ウィキペディアのデータを用いたビジネスを展開することも可能なわけです.例えば,どうしてもサーバが重くなりがちなウィキペディアのミラーを定期的に取って,バナー広告を付加して提供しているサイトがいくつかあります.

このような方針を採っているのは,ウィキペディアが無償の教材として第三世界の教育に役立てられたり,人類共有の知的財産として活用されることを目指していることがあります(注5).実際,ドイツではウィキペディアドイツ語版のCD-ROMが日本円にしておよそ500円で販売された実績があります.

また,記事を投稿することについても全くの自由です.試しに何かご覧になっているページで「編集」タブを押してみて下さい.メインページなどはセキュリティの問題から編集保護されていますが,殆どのページはWikiらしく編集できてしまうはずです.試しに誤字を訂正したりしてみてください.編集の際にはアカウントを作成してログインするとウォッチリストなどの便利な機能が使えますが,ログインせずに寄稿することも可能です.この場合,IPアドレスが名前の代わりに履歴に記録されます.

GFDLに準拠したドキュメントが作成できるように,ウィキペディアとその関連プロジェクトのためにボランティアで開発されているPHPベースのWikiソフトウェア「MediaWiki」には,強力な履歴機能や多言語対応,編集機能が設計されています.また,MediaWiki自体もGPLで配布されています(注6).

2002年6月に行われたソフトウェアの更新から数えて,ウィキペディア日本語版だけで290万回近い編集がなされています.この猛烈なアクセスは,フロリダ州にある Bomis.com のデータセンターに設置してあるサーバ群が処理しています.Bomis社はJimboが創業したベンチャー企業で,ウィキペディアに必要な通信帯域とサーバの設置場所を提供しています.先に述べたように,ウィキペディアは中立性確保のために広告を表示していません.サーバ増強のための資金は,個人の寄付を財源としています.昨年夏にも大規模な寄付キャンペーンを行い,日本の利用者からも多大なる金額を集めました.寄付は常時,ウィキメディア財団のウェブサイトで受け付けております(http://wikimediafoundation.org/).

しかしそれだけでは不十分なため,ウィキペディアやその関連プロジェクトのサーバは地域ごとにアクセスを分散しています.フランスのLost Oasis,オランダのKennisnetからSquidサーバの提供を受けているほか,以前報道されたようにYahoo!からも支援の申し出を受けており,韓国で23台のサーバが稼働する予定です(注7).

  • 注3)http://www.gnu.org/copyleft/fdl.htmlを参照.ウィキメディア財団が運営する他のプロジェクトではCreative Commonsライセンスなどの採用例もあります.
  • 注4)厳密なライセンス条件についてはWIkipedia:著作権を参考にして,ご自身の判断でご利用になってください.また,このライセンスは著作権法上認められている「引用」を制限する物ではありません.
  • 注5)関連プロジェクトとしてフリー教科書を作る「Wikibooks」もあります.http://ja.wikibooks.org/
  • 注6)http://www.mediawiki.orgからダウンロードできます.日本人開発者が少なく多言語対応などで助けを必要としていますので,ご興味のある方は是非開発にご参加下さい.
  • 注7)ウィキペディアのサーバについて更に知りたい方は,各プロジェクトを調整するWiki「Meta-Wiki」http://meta.wikimedia.org/ で「ウィキメディアのサーバ」と検索して下さい.

ウィキペディアの基本的方針

誰でも書ける百科事典が本当に品質を維持できるのか,というご質問をよく頂くのですが,案外うまくいっています.Wikipedia:ガイドブックという項目にまとめられていますが,要約すると「間違っていたら誰かが直してくれる」ことを前提にしています.そのために最適なツールがWikiだったのですね.

とはいえ,基本的な方針は存在します.それが「中立的な観点」です.この方針はWikipedia:中立的な観点にまとめられており,この観点を持たない文章は誰かの手によって書き直されます.ただし,中立的ではないことを理由にいきなり削除することはありません.

日本語は主に日本人によって使われているのでしばしば見落としがちな点ですが,ウィキペディアは国際的に編纂,利用されている百科事典ですから,日本を前提とした書き方も場合によっては中立的とは言えません.WikiとWikiを簡単にリンクする,いわゆるinterwikiの機能がウィキペディアや各プロジェクトの間にもあり,各言語での記述を比較できることも中立性の確保に役立っています.

名前空間

ウィキペディアでは項目をより良くするために,あちこちで活発な議論がなされています.しかし執筆者よりも圧倒的に読者が多いウィキペディアでは,記事の中に議論が混ざってしまうと読みやすさが損なわれてしまいます.そこでウィキペディアには「ノート機能」があります.例えば,ウィキcreateという項目の読みやすさについて,ノート:ウィキで議論されています.ある項目について気づいたことがあればノートに書いてみましょう.ただ,誰が何を言ったのか解らないと議論になりません.ログインした状態で文末に「--~~~~」と書くと日付と名前の入った署名に置換され,これをウィキペディアでは簡単なサインの代わりにしています(署名はカスタマイズ可能です).この署名はどこからどこまでが自分の発言なのかを区切る印にもなります.

このような項目分類方法を「名前空間」と呼び,ノート:○○の他にWikipedia:○○というプロジェクト文書に関する空間,画像やマルチメディアを扱うための画像:○○,テンプレートとして機能するTemplate:○○,MediaWikiの特殊機能に関する特別:○○,ユーザが自己紹介や連絡事項を書ける利用者:○○,ユーザ同士の会話に用いる利用者‐会話:○○などの空間があります.私に対するメッセージは,利用者‐会話:Gleamにお寄せ下さい.

カテゴリ機能

名前空間と似ていますが,より汎用的な機能としてカテゴリ機能があります.文中にCategory:○○と記述すると,その項目が○○というカテゴリの一覧に表示されるようになります.他の言語に比べ日本語版が背負っている重荷は五十音順の索引Wikipedia:索引が人力で編集されている(!)点ですが,カテゴリ機能は索引と同じくらい,閲覧者にとって便利なもののはずです.

私のお仕事

ところで私は前述したようにウィキペディア日本語版のsysopなのですが,sysopという言葉から,どのようなイメージを持たれるでしょうか.ウィキメディア財団のNPO職員?サーバーの管理者?ソフトウェアの開発者?いずれも違います.

ウィキペディアやその姉妹プロジェクトにおけるsysopは,ウィキペディアの一介のユーザーに過ぎません.これまで説明してきたように,ウィキペディアはユーザーの善意に委ねて,問題のある部分は誰かが手直しすることで自ら良くなっていくことを前提に設計・運用されています.しかし,すべての機能を初心者から上級者まで全員に開放してしまうと,誤操作や悪意ある操作による回復不能な被害を生じてしまうかもしれません.それだけ強力な機能がMediaWikiにはあります.そこで,削除や投稿ブロック,サイト全体に関わる設定など,全体の意見をもとに間違いなく操作しなければならない機能について,sysopという権限を付与されたユーザーだけが操作できるようになっているのです.また,これが独特なところですが,sysopには自分ひとりで何かを判断する権限は基本的にありません.一般的なWebサイトにおける「管理者」はサーバやサイトの所有者であり最終的判断の出来る人,という意味であることが多いので,誤解を招かないように「管理者」と言わずにsysopと名乗っている人が多いようです.

編集回数や活動期間など一定の用件を満たせば,誰でもsysopに立候補することができます.信任投票を経てsysopになると,画面にいくつかのボタンが増えます.sysopは自分たちのできる範囲で管理作業を行い,ウィキペディア上やIRC,メーリングリストなど公開の場で連携を取っています.また,複数の言語版や,ウィキメディア・コモンズなどの姉妹プロジェクトなどとのプロジェクト間の連絡はMeta-Wikiという専用のサイトで行っています(http://meta.wikimedia.org/).Meta-Wikiは複数の言語が飛び交う,とてもにぎやかなところです.

【画像2:通常の編集画面】 【画像3:sysopの編集画面】

ウィキメディア財団はプロジェクトから選挙で選出された2名を含む5名の理事会で構成されていますが,彼らの仕事は財務や全体的な方針など非常に限られたもので,殆どの作業はウィキペディア日本語版をはじめそれぞれのプロジェクトで相互に選出されて権限を付与されたユーザーが行っています.MediaWikiの機能にあわせてsysopの他にもsysopを作ることができるBureaucrat,Wiki上で重要な投票を行った際に重複投票がなかったかログを確認することだけを許されるCheckuser,MediaWikiの開発者であるDeveloperなどの権限があります.詳細についてはWikipedia:管理者をご覧下さい.

【図:シスオペの概念図?をご相談してここに挿入したいと思っています.財団の責任者,サーバの管理者,MediaWikiの開発者,各プロジェクトのユーザ(sysop+User)に別れています】

削除依頼とsysop

よくウィキペディアのsysopをやっています,と自己紹介すると「大変でしょう,全部見ているんですか」といわれるのですが,もちろん全部チェックすることはできません.ウィキペディア日本語版は各言語版のなかでも比較的sysopが少ないことが問題視されていて,sysopの人数は現在31名で,約2万7千人の日本語版登録ユーザーに対してわずか0.11%程度の割合です(注7).特別:Recentchangesで表示される更新情報は有志によって解析され,フリーソフトを用いてIRCでもリアルタイムで提供されていますが,そのスピードは壮絶なものがあります.興味のある方はWikipedia:IRCをご参考になって,#jarc.wikipediaをご覧になってみて下さい.

このように巨大化したプロジェクトに対して,少しでも見通しをよくするためにいくつかの工夫がなされています.まず,告知すべき情報はすべてWikipedia:コミュニティ・ポータルに集約されています.手助けを必要としている編集分野,秀逸と認められた記事の紹介,新規参加者へのTipsなどがコンパクトに表示されています.「意見募集中」のところを覗いてみましょう.

【画像2:コミュニティ・ポータル】

例えば著作権を侵害する投稿は,ここからリンクされている[Wikipedia:削除依頼に出されます.膨大な数の削除依頼は,まず投稿者たちの手によって最低1週間,削除すべきか調査・議論され,結論が出るとsysopが実際の削除操作を行います.何をもって削除が妥当とするかは難しい話なので来週に譲ることにしますが,ここではsysopの立場に注目してください.「信頼されたユーザー」という位置づけで,特別な権限が与えられるわけではないsysopは,合意に基づいて最終的な「操作を行う」だけなのです.これは責任を分散し,健全にボランティアベースの編集作業を進め,自治で出来ることを増やし,本当に高度な判断を要求する問題だけをウィキメディア財団が判断するための良い仕組みだと思います.

一方,全くのデタラメな文章については議論を待たずにsysopが即時削除をすることがありますが,削除履歴についてはログに残るので一般ユーザーによってチェックが可能です.また,プライバシー侵害などの案件がこの一年間で増加しており,非公開で履歴を残さずに緊急削除できるように現在ルールを整備しています.本名や住所を公開していない一介のユーザであるsysopが,法的責任をどれだけ負えるかは微妙なところです.また掲載内容や利用に関する企業からの各種問い合わせもあり,日本において法的責任を負うことの出来る法人格が必要とされていると私は感じていますが,実現の目処は立っていません.

  • 注7)特別:Statisticsを参照.数値は2005年8月現在

次回予告

その他,sysopが実行できる機能にはWikiにおける一般的な荒らし対策である「ページの保護」や,より強力な「投稿ブロック」があります.ウィキペディアを掲示板の一種と誤解して利用される方が少なからずいらっしゃるのは事実です.Botを利用した荒らし,大規模な著作権侵害,多くのユーザを巻き込んだ紛争もしばしば起きています.

次回はそのような紛争に対してどのような体制を取っているのか,ご案内します.また,現在も開発が続いているMediaWikiの最新機能についてもご紹介します.(つづく)

今回ご紹介したウィキペディアの項目…

(ここに一覧が入ります)

2月号分「ウィキペディア(2)」

著者: Gleam(http://ja.wikipedia.org/wiki/User:Gleam

こんにちは,Gleamです.さて,先月号ではウィキペディアの概要についてご説明しましたが,その後ページの編集をされましたでしょうか?アカウントを作成するとすぐに,誰かが会話ページにメッセージを寄せたのではないでしょうか.ウィキペディアをライフワークにしている人が世界中にたくさんいて,重度のウィキペディアンは「ウィキペディア中毒」とか呼ばれています.ときどき,Wikipedia:ウィキペディア中毒からウィキペディア中毒テストを受診されることをお勧めします.

さて,そんなウィキペディアにも,多くのトラブルがあります.今月は多くのWikiが抱える問題から,ウィキペディアに特有のトラブルまで,いくつかの事例をご紹介してみようと思います.

但し書き

文中の[[]]について

文中,[[]]で囲ってある文字列はウィキペディアの記事を参照してください.ウィキペディアの「検索」窓にその文章を打ち込むと該当する記事を読むことができます.

文章の信頼性について

この記事はウィキペディアの利用者である執筆者の個人的な見解に基づいており,ウィキメディア財団の公式な見解を示すものではありません.

知れば知るほど難しいGFDL

オープンソースのソフトウェアを扱われている方ならよくご存じだと思いますが,「著作権フリー」と「コピーレフト」は全くの別物です.ウィキペディアは将来に渡って公正で安全に知的財産を共有できるように,Free Software Foundationが作成しているドキュメント用ライセンスであるGNU Free Documentation License (GFDL)を採用しています.ただ,このライセンスは百科事典を前提に作られた物ではありませんし,日本の著作権法と矛盾する部分を抱えていたりするため,今もしばしば議論がなされています.なお,サーバは国内にありませんが,日本語版では日本の法律を遵守する方針を採っています.詳しい解説はWikipedia:著作権を参照して下さい.

ウィキペディアに文章,あるいは画像やマルチメディアを投稿する際には,その内容物をGFDLの元に再配布,再編集を許諾することになります.GFDLは商用利用を含めた再配布の許諾を含むので,基本的に自分の著作物であるか,著作権の及ばないパブリック・ドメインの素材を用いることになります.自分の著作物である場合,投稿した部分の著作権は投稿者に帰属します.つまりウィキペディアに投稿した文章の著作権は,ウィキメディア財団に移行するものではありません.どこかに消滅するわけでもありません.

いわゆる「フリー素材集」からウィキペディアに文章や写真が転載されることがしばしばあるのですが,フリー素材集も再配布は認めていなかったり,出典の表示を厳密に求めている例が多いため,配布元に問い合わせた結果,最終的に削除されているケースが多いようです.商標などはもちろんですが,市章のような公共的なものであっても,著作者がいますし,利用規程とGFDLが矛盾することも多いので掲載されていません(注1).

「著作権を放棄する」といった表現もしばしば混乱を招きますが,日本の著作権法では著作物を作成した時点で著作権が発生し,その著作者に関するすべての権利を放棄することはできません.また,アメリカではフェア・ユースという概念の元に,一定の範囲で他者の著作物を引用する慣習がありますが,日本ではこのような権利は認められていません.政府の作成した著作物についてアメリカでは著作権が存在しないことになっていますが,日本では法令など限られたものを除き,著作権が存在します.どの国の法律に準拠すべきか,という議論も起こるのですが,日本語版では日本国内法に準拠しようという方針の下に行動しています.そのため,ウィキペディア英語版(http://en.wikipedia.org/)では非常に豊富に見える図版や資料が,日本語版ではやや少なく見えるのです.

大変光栄なことに文筆業の方からご投稿頂くこともあり,その際に自分が書いた本を転載する分には自由だろう,と主張されることがまれにあるのですが,これも最終的にはご遠慮頂いているケースが多いのが実情です.著者と出版社の契約内容にもよりますが,出版物と同じ文章がGFDLで発行されると,出版社の複製権を侵害することになる可能性が高いからです.また,投稿者が著者本人かどうかの確認も事実上困難であること,出版物の転載は文章が一致しているか判定するための調査が極めて重い負担になることが,このようなケースを忌避させているようです(注2).

引用ならどうか,となるとさらに状況は混乱しますが,ウィキペディアの基本的な編集方針である「中立的な観点」に立ち返れば,ある特定の文章を引用しなければ成立しないような文章は避けるのが妥当なのではないか,という結論に至るのではないでしょうか.悩ましいのは楽曲の類で,項目を執筆する上では有用な引用であっても,多くの場合歌詞は発見され次第削除されています.

このような問題は,多くのWikiが抱えている共通の課題だと思いますが,監視と削除のほかに対応のしようがないのが実情のようです.投稿された文章の中に外部サイトとの類似が投稿文章にあることを新規参加者の方に指摘すると,「そこまできっちりと権利処理をしているとは思わなかった,全部の投稿を撤回したい」と申し出られたことが何度かあります.問題を回避するためにはまとまった文章をゼロから書き始めなければならないわけですが,それは気軽に投稿できるWikiの仕組みと裏腹にかなり大変なことで,Wikiが利用者に与えるイメージとのギャップを感じています.適度な緊張感と,気軽に参加できるムードのバランスを取るための工夫が,削除などの運用やコミュニティの呼びかけだけでなく,Wikiの設計レベルから必要とされています.

  • 注1)Wikipedia‐ノート:ウィキプロジェクト 日本の市町村に議論があります.
  • 注2)私も何度か,転載を確認するために大きな大学図書館に足を運んだことがあります.

履歴を守るために

著作権侵害は履歴機能のないWikiでは除去,あるいは版の巻き戻しをするだけでよいのですが,ウィキペディアではそうはいきません.ウィキペディアの履歴機能は単なるバージョン管理のみならず,GFDLが要求する執筆者の一覧を保持するためにも必要で,すべての版とその投稿者が一字一句残さず保存されることになっているからです.従って,部分的にでも権利を侵害している部分の文章がその後の版にも引き継がれている場合,だるま落としのように途中の版だけを削除することはできません.議論の結果特定の版以降のすべてを削除したり,あるいは項目全部を削除する勿体ないケースが多くなってしまいます.

履歴機能を廃止してしまえばいいじゃないか,と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが,あなたが関心を持っている分野の優れた記事をいくつか読み,履歴を見たときに同じ執筆者の名前をあちこちで見つければ,この機能の必要性に気づかれるかもしれません.

しかしカンのいい方ならお気づきのように,この履歴機能はある既存の項目Aから別の項目Bに文章をコピーアンドペーストすると,項目Aの履歴が項目Bに継承されず,破綻してしまいます.このような行為を悪意で行われると大変複雑な問題に発展するのですが,善意で項目の内容を移動したい場合もあるでしょう.例えば項目Aを項目Cという名前に変えたいときはどうすればよいのでしょうか.

ウィキペディアは匿名でも利用できますが,ログインすると利用できるようになる機能のひとつに「移動」機能があります.これは履歴とノートを含め,ある項目を別の名前に丸ごと移動する機能です.項目Aを項目Cに移動すると,項目Aから項目Cへは「リダイレクト」が作成され,項目Cは項目Aの最初の執筆からすべての履歴が残ります.この機能がログインしないと使えない背景には,多くの辞書や百科事典と同じように,ウィキペディアにおける命名規則には多少ややこしい慣習があり,合意形成に基づくべきところが大きいので,無駄な移動合戦を防ごうという意図があるようです.移動によって元々項目Aにリンクを張っていた項目にも大規模な変更の必要性が出ることも多いので,こういった処理は経験豊富なユーザーに相談するのがよいでしょう.

さらにややこしい問題です.項目Aの一部分だけを項目Dに移動したり,項目Aと項目Eを統合して項目Fを作りたいときは,どうしたらよいのでしょう?こういったケースでは,依頼に基づきsysopが特殊な操作をして,二つの項目の履歴を強制的にマージしたり,履歴に残る「要約欄」に出典となる項目の履歴情報を書くことで対応することがあります(注3).この対応は厳密にはGFDLに対するウィキペディアの解釈と矛盾する場合があり,現在もより良い解決のためにMediaWikiの改良などが議論されています.

百科事典の項目をできるだけ細かく作るか,大きい項目に網羅的に文章を書くか,というのは難しいところで,しばしば統合や分離の依頼が出ています.ちなみにウィキペディア日本語版は小項目主義,英語版には大項目主義の傾向が見られると言われているようです.

  • 注3)Wikipedia:記事の分割と統合に草案と現在の暫定的な対処ルールがあります.

編集合戦

ウィキペディアで起こるトラブルは,著作権侵害,GFDL履歴不継承だけではありません.次に多いトラブルは「編集合戦」です.同じ項目への頻繁な投稿は履歴が見にくくなることから,ウィキペディアでは文章をよく推敲してから投稿することを推奨していますが,記事がよりよくなる限りは,基本的に積極的な投稿は歓迎されるべきことです.しかし残念ながら,特に政治や宗教など,微妙な解釈の違いが起こりやすい項目では,複数人の投稿者がお互いの投稿部分を削除し合うようなトラブルが,しばしば起こります.このような項目はお互いに冷静になってもらうために一旦「編集保護」されます.またウィキペディア日本語版には「3 revert ルール」という慣習があり,お互いの投稿を3度削除しあった投稿者は一時的に投稿をブロックすることがあります.

テンプレート

内容が不十分,中立的でない,文章が稚拙,画像が実用に耐えない,などの問題は,基本的にお互いに補いあうことで解決することになっています.このような項目を発見したときには,読者によりよくしている途中である旨を断り,投稿者に改善を促すために用意されたテンプレートを貼り付けます.特に「スタブ」(書きかけ)のテンプレートはよくご覧になったことがあるのではないでしょうか.これらのテンプレートが貼り付けられている項目は「この項目にリンクしているページ」を探す機能で辿ることができるほか,投稿者が多数集まっている執筆分野では「ポータル」と呼ばれるページが構成され,集中的に整備するよう呼びかけているケースもあります.もし何か執筆してみたいけど何を書けばいいのかわからない,という時は,ぜひこういったポータルを活用してみて下さい.分野によっては執筆をたすけるためのテンプレートや,表記ぶれしやすい項目の命名規則を用意している場合もあります.

【図:テンプレートのリスト】 【図:ポータルの例】

マルチメディア化するウィキペディア

少し堅い話題が続きましたので,最後にMediaWikiに最近搭載された機能について,特にマルチメディア関係を中心にご紹介したいと思います.

GFDLがアクセス自由なファイル形式を維持することを要求しているため,MediaWikiでは基本的に誰もが編集可能なファイル形式を扱うことになっています.本文はプレインテキストですし,画像はJPEG・PNG・SVG,オーディオファイルはOgg Vorbisを受け入れています.マルチメディアはウィキペディアにもアップロードすることができますが,多くの言語で別々にアップロードする煩雑さを回避するために,それらを専門に受け付ける「ウィキメディア・コモンズ」(http://commons.wikimedia.org/)が出来ました.ウィキメディア・コモンズはGFDL,パブリックドメインのほかにCreative Commonsライセンスも受け付けており,GFDLでライセンスされているもの,パブリック・ドメインに属するものはウィキペディア日本語版にも引用することができます.このとき,ウィキペディア内のデータなのか,コモンズのデータなのか意識せずに利用できるように,データベースは完全に連動しているのが特長です.

コモンズで紹介されている画像には美しい物が多く,これらがコピーレフトで提供されているというのはとても魅力的なことです.私はコピーレフトの画像を使って,GFDLライセンスのマグカップを手作りして販売したことがあります.

【図:ウィキメディア・コモンズ】

文章と異なり,図版は複数人で編集するのが非常に困難なのが実情でしたが,MediaWikiはバージョン1.6でSVGファイルをブラウザ上で編集できる機能を搭載しました.ある人が描いた優れた図版を,他の言語に翻訳したりするときに活用されることが期待されています.

【図:SVGファイルの編集の様子】

その他MediaWikiではTeX形式での直接記述,画像のリサイズ,簡易年表作成機能(英語のみ),また意外なところでは象形文字のヒエログリフ記述機能などが搭載されています.百科事典の編纂という特殊な目的を達成するために開発されいるWikiツールとして独自の進化を続けているMediaWikiですが,ぜひWikiツールを開発されている皆さんとも交流できると,もっと面白い機能が作れるのではないかと思います.

あとがきにかえて

さて,2回に渡って私のつたない文章をお読み頂き,ありがとうございました.ウィキペディアは知の権威である百科事典を編集している一方,実態としては私のように大学生などの若い人々が沢山関わっています.Wikiに特有の「どこから読めばいいのかわからない」状況も,ポータルの整備などで順次改善されていますので,ぜひこの機会に,ウィキペディアの興味ある分野に関わってみて頂ければ幸いです.

今回ご紹介したウィキペディアの項目…

(ここに一覧が入ります)

Last modified: 2005-10-16 Attached files total: 48MB